エアライン各社がこぞって力を入れているタイムセールや限定キャンペーン。こうした販促イベントはロイヤリティを強化し、売上を底上げする効果が期待できますが、急激なアクセス増加に対応しきれなければ、システムがダウンしてビジネスにダメージが及ぶリスクもあります。今回は、なぜ航空会社が販促イベント時に仮想待合室を活用しているのか、深掘りしていきます。
航空券予約は、ダイナミックプライシングや複雑な在庫管理、さらには外部システムとの連携などにより、Eコマースの中でも特に難易度が高い分野だと言われます。普段は問題なく運用できていても、タイムセールやキャンペーンなどのアクセス急増時には、システム障害が起こり以下のようなリスクを招いてしまいます。
- 長期的な販売機会の損失: サイトやアプリが正常に稼働せず、顧客が購入を断念してしまうと、競合他社やサードパーティのサイトに流れてしまうリスクがあります。
- リソースの消耗: 障害発生時には、ITチームがシステム復旧に追われたり、マーケティング部が再販スケジュールの調整をしたり、カスタマーサポートチームが顧客の問い合わせ対応に努めたりと、多くの部署が障害の事後処理に追われてしまいます。こうしたダウンタイムコストはビジネスにとってかなり痛手になります。
- 評判の低下: 顧客の不満がソーシャルメディアで拡散されたり、メディアで取り上げられることで、ブランドイメージが損なわれる可能性があります。
- ロイヤルティと信頼の喪失: サイト障害でユーザーに不便を与えると、信頼が失われるリスクも。一度失った顧客との接点を取り戻すのは難しく、長期的な顧客関係にまで影響が及びます。
全日本空輸(ANA)やキャセイパシフィック航空、Peach Aviationといった大手航空会社は、Queue-itの仮想待合室を導入してトラフィックを管理し、繁忙期でも安定した販売を実現しています。それでは、航空会社がなぜ待合室を負荷対策として選んでいるのか、メリットを具体的に見ていきましょう。
- ボトルネックを守り、サイト・アプリを安定稼働: 航空会社にとって「信頼性」は欠かせません。それは、乗客を目的地まで安全に送ることでもあれば、予約サイトを便利に利用してもらえる環境を整えることでもあります。仮想待合室はトラフィックを一旦オフロードし、システムの許容量に合わせてビジターをリダイレクトすることで、アクセスの集中を緩和。データベースや決済ゲートウェイといった航空券予約サイトのボトルネックになりやすい部分も保護することができるため、確実なパフォーマンスを実現します。
- ポジティブな顧客接点&販促チャンスを創出: 待合室にリダイレクトされた顧客は、エアラインブランドに合わせたページ上で、具体的な待ち情報を確認することができます。また、キャンペーン動画や新サービスの案内、アプリのダウンロード促進などもページ上で行えるため、待ち時間を活用してブランドとつながる大切な時間を作ることができます。あらゆるタッチポイントで乗客に上質なサービスを提供することを目標にするエアラインは数多くあり、待合室のこうしたカスタム要素が重宝されています。
- チケット販売に欠かせない「公平さ」を実現: 航空券予約は座席数や販売時間が限られているため、いかに公平にチケット購入の機会を与えられるかが重要です。仮想待合室の先着順やライブ抽選機能により、すべての顧客に平等なチャンスを保証。限られた座席の争奪戦でも顧客満足度を高めます。
- ボットや不正アクセスのブロックで正規顧客の体験を保護: Queue-itのボット対策ツールは空港のセキュリティゲートのように作用します。ウェブページ間に待合室を設置することでボットが販売経路に侵入する前に認証を行い、適切に通過できるかをチェック。明らかに怪しいトラフィックに対してはハードブロックをかけることも可能です。
例えば、日本を代表する航空会社であるANAは、販促イベントでQueue-itをお使いていただいている企業の一社です。導入から運用まで担当されている森田研介氏は、待合室のメリットについてこのように語ります。
「お客様の体験を損ねることなく、アクセス集中によるシステム障害を回避できるので、通常時の何倍ものアクセスが瞬間的に発生するサービスを提供している会社には本当におすすめです。お客様も提供側も、みんなを幸せにするソリューションです。」
全日本空輸株式会社 デジタル変革室 サービスプラットフォーム部 デジタルチャネルチーム マネージャー 森田 研介氏
仮想待合室は、トラフィックが集中した際に顧客を一時的に待機させ、システム処理のペースに合わせて、順番にアクセスを案内するソリューションです。待合室画面では順番や待ち時間をリアルタイムで表示し、顧客が不安なく待てる環境を提供します。また、デザインやURLはブランドに合わせてカスタマイズ可能で、違和感なく待機画面に移行できるのもポイントです。
仮想待合室の利用方法には、以下の3種類があります。
- 販促イベント保護の定番「スケジュール型待合室」: スケジュール型待合室は、限定セールやキャンペーンなど、開始時間が決まっているイベントでのトラフィック管理にぴったりです。販売開始前にアクセスした顧客は、カウントダウンが表示される待機ページへと案内され、開始時刻になるとランダムな順番で待合室へリダイレクトされます。その後にアクセスした顧客は、先着順に並び、順番が来ると本サイトへ案内される仕組みです。これにより、公平な順番でアクセスが許可され、安心してイベントを運営できます。
- 予想外のトラフィック時にも安心「ビジターピーク保護」: 予期せぬアクセス急増への対策としても、仮想待合室は活躍します。企業や組織は、あらかじめシステムの許容量に基づいた閾値を設定し、トラフィックがその量に達した際のみ待合室が起動。訪問者は順番にアクセスできるため、サイト負荷が安定的に保たれます。ピークが収まると待合室は非表示になり、通常運転に戻る仕組み。ニュースやSNSでの話題化、有名人の言及といった思わぬ注目にも即座に対応できる保険のような存在です。
- ロイヤルティプログラムの強化「招待制待合室」: 会員限定・先行販売など、特定の顧客のみが対象のイベントには「招待制待合室」が便利です。ユニークIDで認証されたユーザーのみアクセス可能で、ボットや非会員の不正なアクセスを防止。会員登録を促すインセンティブとしても活用できます。招待制待合室には、ワンタイムリンクや二要素認証を使うことで、限定された安全なアクセスが提供され、メンバー向けの特別な体験を提供できるのも魅力です。
国内LCCで第1位、航空業界全体でも大手キャリアに次ぐ第3位の業績を誇るPeach Aviationは、販促キャンペーン時にQueue-itを活用して顧客体験を向上させています。同社はどのような経緯で仮想待合室の導入に至ったのでしょうか。
コロナ禍の渡航制限が緩和された頃から、旅行熱の再燃に応える形で、Peachは積極的にセールやキャンペーンを開催するようになりました。同社イノベーション本部本部長の村上篤実氏は、当時の状況をこう振り返ります。「たくさんのお客様にサイトを訪問いただける一方、システムにかなりの負荷がかかっていました。オートスケールで対応してはいたものの、想定を超える数のお客様が来てサーバー増強が追いつかないこともあり、ハンドリングに困っていました。」
オートスケールを補うために、トラフィックが一定数を超えると自動的にアクセス数を制御するフィルタリング機能も用意。しかし、サイトダウンが起こることもあり、顧客体験の質の低さがネックだったと言います。
目下のビッグイベントである就航11周年記念セールに向けて対策を模索する中で、Queue-itの導入を決定した理由は、「顧客体験を追求するソリューションだった」こと。そして、Akamai EdgeWorkers Connector経由で安全に統合できること、24時間体制の日本語サポートが提供されている点も大きな決め手となりました。
セール当日、Peachのサイトには1分間に4000人を超えるアクセスが集中しました(下図の緑線)。村上氏のチームは仮想待合室を活用し、トラフィックを1分間に最大1000アクセスに抑えることで、システムの許容量を保ちながらスムーズな運営を実現(下図の赤線)。1週間にわたるセール期間中、200万人を超えるビジターをスムーズに管理することができました。
「以前までは、繁忙期にサーバーがダウンしたり、快適にご利用いただけない状態になってしまうのが不安でした。仮想待合室を導入してからは、”守られている”という気持ちが強くなり、営業活動に専念できるようになりました。」
Peach Aviation イノベーション本部本部長 村上篤実氏
このセールに参加した顧客からは、ソーシャルメディアやアンケートを通じて好意的なフィードバックが多く寄せられたといいます。
では、最後に、負荷対策としてよく仮想待合室と比較されるスケーリングについて少し触れます。
「容量の問題なら、サーバー増強で解決できるのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、スケーリングには次のような課題もあります。
- 高額なコスト:サーバーはランニングコストが高く、年に数回しかないトラフィックピークのためにサーバーを増強するとコストの無駄が生じます。
- 時間差: 通常、オートスケールには多少ですが時間がかかります。そのため、トラフィックの急増に対して即座に反応できず、障害が起きてしまうことも多々あります。
- ボトルネックのリスク: データベース、在庫管理システム、決済ゲートウェイなどのサードパーティ機能、動的検索やおすすめ機能など、ボトルネックになりやすい部分はオートスケールではカバーしきれないため、どんなにサーバーを増強したとしても過負荷の問題を防ぎきれません。
このように、オートスケールだけでは、運用効率が悪い上に、システムの障害のリスクを防ぐことができません。